マイペンライ日記6

  • コラム

のどか、という言葉がこれほど似合う場所を私は知らなかった。
朝は鶏のけたたましい鳴き声。空き地では水牛が草をはみ、散歩をすれば牛に道をふさがれる。
濃い緑、鮮やかな南国の花。ドアのない公衆電話、舗装されていない道、大人用の自転車を立ち漕ぎする少年。
適当な量のガソリンが適当なお酒の空き瓶に入って並ぶ小さな商店。そんなお店の前でおばちゃんが気だるそうに座っている。
どこかへタイムスリップしたような不思議な気持ちになった。

散歩中に出会った中でも特に印象的だった、鶏をセカンドバッグのように抱えた渋いジャケット姿のおじさん。
店先で売っている瓶入りのガソリンをバイクに補充して、おじさんは鶏を小脇に抱えたまま颯爽と片手運転で去って行った。
今でこそ見慣れたバイクの片手運転もこの頃はまだ新鮮だったのもあり、たかだか数分同じ空間に居合わせた彼らの登場から退場までとにかく目が離せなかった。

タイっておもしろい!とわくわくせずにはいられなかった。

 

 

● 作者プロフィール

おこめ
秋田県能代市出身。 2012年、涙で明日が見えなくなり心機一転タイへ移住。現在はバンコクにて現地採用で働く傍ら作家活動をする二児の母。座右の銘は「なるようになる」。
著書: ゼロからスタート!タイ移住サバーイマニュアル